『BRAINS〜コンピュータに賭けた男たち〜』
コンピュータの基礎講座@ コンピュータの基本構造
コンピュータは制御装置・演算装置・記憶装置・入力装置・出力装置の5つの要素から構成されている。記憶装置はさらに主記憶装置と外部記憶装置に分かれている。
CPUはコンピュータの頭脳であり、主記憶装置(一般にメモリと呼ばれている)がCPUの仕事場となる。したがって、この二つはコンピュータの基本性能に決定的な影響を与える。CPUの処理速度が速く、主記憶装置の記憶容量が大きいものほど良い。
それと外部記憶装置。これは書庫のようなもので、CPUは随時必要なデータを外部記憶装置から主記憶装置に読み込み、仕事を続ける。もちろん大きいものの方がよい。
よくコンピュータのカタログに、Pentium 200MHz・メモリ32MB・HDD 2GBなどど書かれているが、これは順にCPU、主記憶装置(メモリ)、外部記憶装置(ハードディスク)の性能を示したものである。
バベッジの解析機関はミルと呼ばれる計算機関とストアと呼ばれる記憶装置、そして入出力装置から構成されていた。ミルは現在のCPUに相当し、その全体の構造は現在のコンピュータに驚くほど類似していた。中でも入力装置と制御機構の導入はプログラム制御を可能にする画期的なアイデアであった。その構想がコンピュータの誕生する百年も前に生まれていたとは驚嘆すべきことである。
ならばもし、当時解析機関が完成していたとしたら、世の中は変わっていただろうか?答えはおそらくノーである。バベッジの解析機関と現代のコンピュータとの決定的な違いは演算速度と記憶容量の大きさにある。
現代のコンピュータのCPUの動作速度は100MHzを越えている。1秒間に1億回の動作である。記憶装置は主記憶装置で数十MB、外部記憶装置のハードディスクでは1GBを越えている。BはByte(バイト)の略で、記憶容量を表す単位である。活字に換算すると1GBは5億字に相当する。400字詰原稿用紙で実に約100万枚の記憶容量である。
一方バベッジの解析機関は、演算速度は1秒間に1回程度、記憶装置は50桁の数字を1000個までたくわえるように構想されていたという。現在の言葉でいえば、その記憶容量は約5kBである。それは、当時とすれば途方もなく大きなものであったが、現在の技術から見ればあまりにも小さい。
その量的な違いが、現在のコンピュータが世の中を変えつつあるのに対して、バベッジの解析機関が見向きもされなかった本質的な理由である。世の中の技術は質的な変化が重要なものと量的な変化で進化していくものとがあるが、コンピュータは後者の典型的な例である。
しかし、だからこそかえって、バベッジの偉大さは際立つ。実用的にはほど遠い技術環境の中で、一人コンピュータの持つ大いなる可能性を追求し続けたその先見性は、まさに賞賛すべきものである。現在では、チャールズ・バベッジの名は『コンピュータの父』として広く知られるようになってきている。
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