BRAINS〜コンピュータに賭けた男たち〜』

第一部 苦難の開拓者たち 第二章 アラン・チューリング

C COLOSSUS


1.海上

 海面に艦橋だけ出して、数隻のUボートが進む。

N「英国本土攻防戦に敗れたドイツは、イギリスの生命線である海上貿易ルートの壊滅

 に全力を上げる」

 Uボートの進行する先、イギリスの輸送船団が遠くに見える。

N「大西洋の戦い − 終戦までに連合国側の船舶被害は2000万トンに達する一方、

 ドイツ・Uボートの生還率はわずかに10%という、史上空前の消耗戦を繰り広げる

 ことになる」

 静かに潜行していくUボートの編隊。

  *

 イギリスの輸送船団。

 その先頭にいる護衛の駆逐艦。

 その甲板。

 艦長と船員が話している。

艦長「平和なものだな」

船員「ウルトラのおかげですよ。敵Uボートの動きを刻々伝えてくれる」

 うなずく艦長。

N「しかしこの時期、イギリスの切り札ウルトラ情報は混乱し始めていた」

  *

 海中。

 数隻のUボートから一斉に魚雷が発射される。

 

2.暗号研究所

− Hut4 海軍暗号分析班 −

 暗号文を分析している研究員たち。

 みな一様に厳しい表情。

研究員4「解けていない…」

研究員5「こっちもだ」

研究員4「おかしい…何かが変わり始めている…」

 

3.海上

 駆逐艦の甲板。

 斜め後方の輸送船が爆発。

 驚いたように見る艦長と船員。

 次々と輸送船から火柱が上がる。

N「1943年に入ると、連合国軍の被害は再び増加していく」

 

4.ボンベ・ルーム

 ズラリとボンベが並んでいる。

− Hut11 −

 研究員1がボンベを調べている。

 心配そうに見ている所長のトラビスやジョアンたち。

研究員1「(首を振る)異常はありません」

トラビス「(怒り出す)なぜだ!なぜ急にエニグマが解けなくなったんだ!」

研究員1「わかりません。でも…」

トラビス「でも?」

 一同。

− 考えられることは一つ… −

 そこにウェルチマン、来る。

ウェルチマン「やっぱりだ」

 見る一同。

トラビス「何がだ?」

ウェルチマン「(見る)ドイツが新しい暗号システムを導入したんですよ」

トラビス「新しい暗号システム!?」

研究員1「やっぱりそうか…」

 ウェルチマン、一枚の写真を見せる。

ウェルチマン「これが情報部から届いたドイツの新しい暗号機械だ」

 のぞき込む一同。

 

5.イメージ

 ドイツ軍の新しい暗号機。

− ローレンツSZ40 −

 と、その模式図。

N「ドイツのローレンツ社により開発された暗号機。アルファベットを5bit(2進

 数の5桁)の数字で表し、それに適当な数字を加えて暗号化する。エニグマが3また

 は4個のローターだったのに対し、SZ40は歯数の異なった12個のローターを使

 用していた」

 

6.ボンベ・ルーム

研究員1「12個!?」

ウェルチマン「(うなずく)暗号表の周期はエニグマの実に一千兆倍。1600京

 (1.6×1019)だ」

[注:エニグマの暗号表の総数は10京だが、これはプラグボードの働きなどを加味

 たもので、暗号表の周期自体は17,576。暗号表の周期の長さは暗号の性能に

 決定的な影響を与える]

トラビス「1600京…!?」

一同「…」

研究員1「どうする、ウェルチマン?またエニグマの時のように新しい暗号解読機を作

 るか?」

ウェルチマン「そんな簡単にいくかよ。規模が違いすぎる」

トラビス「(怒鳴る)無理とは言わさんぞ!それがおまえたちの仕事だろう!!」

ウェルチマン「(怒鳴り返す)無理なものは無理ですよ!エニグマの一千兆倍ですよ!?

 (小さく)ぼくらは神じゃない…」

一同「…」

ジョアン「(ボソッと)こんな時チューリング博士がいてくれたら…」

 見る一同。

研究員2「そうですよ。所長が博士をアメリカなんかにやるから…」

トラビス「(激怒)うる…」

 ビクッと首をすくめる研究員2。

 が、トラビス、途中で言葉を飲む。

トラビス「(声を落とし)…さい」

 トラビス、苦渋に満ちた表情で窓の外に目をやる。

− こんなことになるのなら私だって… −

 

7.イメージ

 ローレンツSZ40による暗号文。

N「新しい暗号システムはコード・ネーム“フィッシュ”と名付けられ、その分析が始

 まった」

 

8.暗号研究所

 一人の男がそれを見て考え込んでいる。

− M・H・A・ニューマン −

 それを心配そうに見ている所長のトラビス。

トラビス「どうですか?ニューマン先生?」

ニューマン「ウーン…」

 その様子を遠巻きに見ている研究者たち。

 そこにウェルチマン、来る。

 見知らぬニューマンに気付き、足を止める。

ウェルチマン「(ジョアンに)誰?」

ジョアン「ニューマン博士。ケンブリッジ大学でチューリング博士の指導教官だった人。

 あのチューリング・マシンの論文を最初に査読した先生です」

ウェルチマン「なるほど…チューリングの身代わりというわけか…。所長も必死だな」

 ウェルチマン、トラビスの方に歩み出る。

ウェルチマン「所長、面白いことがわかりましたよ」

 見るトラビス。

ウェルチマン「ドイツはボンベに気付いてフィッシュを導入したわけではありません。

 よく調べてみると、暗号文の80%は依然としてエニグマです」

研究員2「そ、それじゃ、その80%は今まで通り解読できる?」

ウェルチマン「もちろんだ。ちょっと混乱があったけど、もう大丈夫。識別できる」

 研究員たちに笑みが戻る。

研究員1「なんだ、我々のシステムが見破られたわけじゃなかったのか…」

ジョアン「たった20%なら、たとえそれを捨てたとしても…」

 うなずくウェルチマン。

 だが、トラビスだけ真顔。

トラビス「その20%が問題なんだ」

 見る一同。

トラビス「フィッシュ暗号はヒトラー直々の伝達に使われている」

「ヒトラーの!?」

トラビス「(うなずく)戦争は今大きな転換点を迎えつつある。我々にはヨーロッパを

 解放するという大きな任務がある。そのためには…」

 

9.イメージ

− 東部戦線 −

 それが示されたヨーロッパの地図。

N「この時期、ヨーロッパ大陸でドイツと陸戦を行っていたのはソ連だけであった」

  *

 激しい市街戦が繰り広げられている。

N「質的に劣るソ連軍は1600kmに及ぶ戦線で多大な犠牲を払いながら、極限の中

 で持ちこたえていた。そのため、わずか4年の戦いで、2000万人という交戦国中

 最大の戦死者を出すことになる」

  *

 ソ連国旗を背にしたスターリン。

N「この苦境を脱するため、スターリンは英米に対し、再三にわたって西ヨーロッパに

 第二戦線を構築するよう要求した」

 

10.暗号研究所

ジョアン「西部戦線?」

トラビス「そうだ。西ヨーロッパからも合わせてドイツを挟撃できない限り、ドイツは

 東部戦線に全力を向けることができる。いつ東部戦線が破られるか…。そうなったら

 取り返しのつかないことになる」

一同「…」

トラビス「これは第一級の極秘事項だが、現在上層部ではフランス上陸作戦が真剣に

 検討され始めている。兵力総数200万の大上陸作戦がな」

ウェルチマン「200万人!?」

トラビス「この成否がおそらくヨーロッパの命運を決定する。我々はどうしても敵国

 トップの情報を手に入れなければならんのだ」

一同「…」

 

11.イメージ

 スパイ活動。

 街角で二人の男がさりげなく文書のやり取りをしている。

N「この頃から英独両国で上陸作戦をめぐる諜報活動が激化する」

 

12.暗号研究所

 ニューマン、しきりに何かを計算している。

 が、その手がハタと止まる。

ニューマン「(辛そうにつぶやく)やっぱり無理か…」

 見るトラビス。

ニューマン「ボンベを改良するだけでは到底無理です」

 見るトラビス。

一同「…(重い空気が流れる)」

 電話を取るトラビス。

トラビス「(受話器に)ああ、トラビスだ。チューリングの帰国日はわかったか?」

 見る一同。

トラビス「3月?」

 壁に貼ってある1943年のカレンダー。

トラビス「31日!」

 3月31日のクローズ・アップ。

 

13.海上

 駆逐艦の甲板。

 チューリングが風に吹かれて、一人たたずんでいる。

 その顔に、

− アメリカの計算機技術はずい分進歩していたな。だけど、リレーではダメなんだ −

 チューリング、手に持っている真空管を見つめてつぶやく。

チューリング「リレーでは遅すぎる…」

 そこに艦長2、来る。

艦長2「博士、風が出てきました。危ないですよ」

チューリング「はい」

艦長2「(見る)おや?それは何ですか?」

チューリング「(見せる)真空管です。(笑顔を見せ)思考の材料です」

艦長2「思考?」

 

14.港

− 1943年3月31日 −

 停泊している駆逐艦。

 そこからぞろぞろと船員が下船している。

 船員やその関係者の人混み。

 そこをジョアンがきょろきょろしながら駆けていく。

− 確かにこの船のはず… −

 ジョアン、船員2を捕まえ、

ジョアン「すいません。チューリング博士は知りませんか?」

船員2「(見る)ん?」

ジョアン「(身振りをまじえ)背はこのくらいで…30歳くらいなんですが顔は若作り

 なので、もっと若く見えてですね…そう、一見するとちょっと変わった…」

船員2「この船は軍艦だ。一般人は乗っていない」

ジョアン「そんなはずは…」

 艦長2、ジョアンに気付く。

艦長2「君は?」

ジョアン「(見る)ブレッチレー・パークの者です。チューリング博士をご存じですか?」

艦長2「博士ならドリス・ヒルに行くと言っていたよ」

ジョアン「ドリス・ヒル?」

艦長2「郵政省の付属研究所があるところだ。変なガラス管を持ってね」

ジョアン「ガラス管?」

 

15.研究室

− 郵政省付属研究所 −

 そこに来ているチューリング。

 チーフエンジニアのT・H・フラワーズがチューリングの持ってきた真空管を手に聞

 き返す。

フラワーズ「真空管で計算機を作る?」

 研究員たちが物珍しそうに集まってくる。

チューリング「ええ」

研究員6「真空管って、この真空管か?」

研究員7「他にどんな真空管があるっていうんだよ」

研究員8「一体何個の真空管を使うつもりですか?」

チューリング「概算ですが、1000から2000」

 キョトンとなる一同。

 顔を見合わせ、苦笑する。

研究員6「そいつは無理です、博士。ここにある電子回路でも真空管の数はせいぜい

 4〜5個。そんなに多くの真空管がいっぺんに正常に動作するはずがない」

研究員7「下手すると燃えますよ」

チューリング「…」

フラワーズ「本気ですか?」

チューリング「計算速度が千倍になるのです」

フラワーズ「(見る)」

  *

 そこにジョアンが勢いよく入ってくる。

ジョアン「チューリング博士!」

 見るチューリング。

 ジョアン、チューリングを見つけてホッとする。

ジョアン「捜しましたよ。すぐ戻って来て下さい」

 見る一同。

 

16.暗号研究所

 集まっている一同。

 戻って来ているチューリング。

 ニューマンがフィッシュの説明をする。

ニューマン「ボンベを改良するだけではどう考えても無理なんだ。少なくともボンベ

 より千倍速い計算速度が必要だ」

チューリング「(ピクッと反応する)千倍?」

 心配そうに見ているトラビス。

 フッと笑うチューリング。

 一同。

チューリング「電子計算機を作りましょう」

ウェルチマン「電子計算機?」

チューリング「リレーの代わりに真空管を使うのです」

 リレーと真空管の図がかぶる。

チューリング「リレーは電磁石の力によってスイッチのON/OFFを行う。スイッチ

 (鉄片)を機械的に動かしてね。一方、真空管ではそれを電子の流れで行うことがで

 きる。機械的に動く部分がないので、理論的にはスイッチング速度、つまり計算速度

 を千倍にできるはずなんだ」

研究員1「無理だ!そんなもの、聞いたことがないぞ!」

研究員2「第一、ここには真空管の技術がない」

声「それは私たちが担当しますよ」

 フラワーズが数人の若手研究員を引き連れて現れる。

フラワーズ「聞いたことがないからやるんですよ。世界初の電子計算機です。それが

 研究者ってもんでしょ?」

 見る一同。

 チューリングを見るトラビス。

チューリング「郵政省付属研究所のフラワーズ博士のチームです。電子回路の専門家

 です。協力を要請しました」

トラビス「フム…」

ジョアン「やるしかないですよ…他に方法はないんですから…」

 トラビス。

− そうだ。もう我々にはこの男しかいないんだ −

 チューリングを見る一同 その顔に強い決意がみなぎってくる。

 

17.HutF

 チューリング、ニューマン、フラワーズの三人が机に向かって黙々と設計を行ってい

 る。

N「フィッシュ解読用電子計算機の開発はニューマンを責任者として、新設のHutF

 で進められた」

 一心に設計図を引いているフラワーズ。

 顔を上げず手を動かしたままチューリングに話しかける。

フラワーズ「チューリングさん、アメリカはどうでしたか?」

チューリング「(見る)」

フラワーズ「進んでましたか?」

チューリング「すごかったよ。二つの戦争でイギリスとアメリカの立場は完全に逆転し

 たね」

フラワーズ「…」

チューリング「計算機もね」

 見るフラワーズ。

チューリング「だけど、真空管の有用性に気付いていた者はいなかったな。少なくとも

 ぼくの会った中ではね」

フラワーズ「(見る)それじゃもし、これがうまくいったら…」

ニューマン「(顔を上げる)イギリスの底力を見せつけてやろうじゃないか」

 強くうなずく二人。

 

18.イメージ

 アメリカのコンピュータ開発。

N「この頃アメリカでも陸軍で弾道計算を高速に行うために電子計算機の開発が大々的

 に行われていた。それはENIAC(エニアック)と名付けられ、後に衝撃的なデビューを

 果たす。しかし当時は互いにその存在を知らないでいた。戦争のベールに包まれた中、

 激しい先陣争いが始まっていたのである」

 

19.中庭

 話をしているジョアンとウェルチマン。

ジョアン「でも、なぜ“計算機”なんですか?“暗号解読機”ではなく」

ウェルチマン「同じなんだよ」

ジョアン「(首をひねる)同じなんですか?」

ウェルチマン「計算機の内部では二進法が使われている」

ジョアン「ええ。1と0だけですね」

ウェルチマン「(うなずく)その1を“真”、0を“偽”とおけば、それはそのまま論

理を計算することになる。つまり、計算機というのは単なる計算する道具ではなく、

 もっと高度な…情報処理装置ともいうべきものなんだよ」

ジョアン「情報処理?」

ウェルチマン「(うなずく)計算機の可能性は、ぼくらが普通に考えている以上に大き

 いらしい。チューリングの話だと…」

ジョアン「(ボソッと)博士はになろうとしているのかもしれない」

ウェルチマン「神?」

ジョアン「(見る)創造主という意味です。機械に命を吹き込むという…。今はまだま

 だですけどで…」

ウェルチマン「機会に命を、か…。確かにあいつならやりかねん」

ジョアン「ちょっと怖い気もしますけど…」

「フン」と笑うウェルチマン。

 

20.解説

 二進法。

 

21.HutF

計算機の組み立てを行っている技術者たち。その中心にチューリング、ニューマン、

 フラワーズの三人。

 顔は疲れきった表情を見せているが、その目は熱く輝いている。

チューリング「よし、とりあえず実験機はできた…」

 組み上げられた電子計算機の試作1号機。

− 試作1号機“PETER ROBINSON” −

 それを見つめている三人。

フラワーズ「それじゃ電源入れますね」

チューリング「うん」

 フラワーズが電源を入れると、計算機のランプが点灯する。

ニューマン「こちらから暗号のテープを入力して…」

 ニューマン、紙テープを計算機にセットする。

ニューマン「そしてスイッチをONにすると…」

 紙テープが計算機に吸い込まれていく。

フラワーズ「おお、動いてる動いてる」

 笑顔がこぼれる三人。

フラワーズ「やりましてね」

チューリング「順調順調」

 が、

 計算機、ガタンガタンと音をたて、止まってしまう。

フラワーズ「あらら…テープが詰まったか…」

 計算機を調べる三人。

ニューマン「ん?なんか、焦げ臭くないか?」

 見ると、計算機から煙が漏れてくる。

三人「(顔を見合わせる)…」

 

22.中庭

 ジョアンとウェルチマン。

 HutFからボン!という爆発音。

 顔を見合わせる二人。

ウェルチマン「何だ?」

 駆け出す。

 

23.HutF

 人垣ができている。

 そこに来るウェルチマンとジョアン。

ウェルチマン「どうした?」

 見るとチューリングら三人がすすだらけで立っている。

チューリング「まあ最初だからね」

「ハハハ…」と顔を見合わせ力無く笑う三人。

一同「…」

 

24.所長室

 トラビスのもとに、ウェルチマンが来ている。

トラビス「(厳しい表情)かなり難航しているようだな」

ウェルチマン「優秀な技術者たちを総動員しているのですが…」

トラビス「あの男を持ってしてもダメか?」

ウェルチマン「奇跡は…二度は起きないかもしれません」

 見るトラビス。うなずく。

トラビス「私は何をしたらいい?」

 見るウェルチマン。

トラビス「私にできることは…」

ウェルチマン「ボンベをできるだけ増産して下さい」

トラビス「20%がダメでも、確実に80%解く…」

ウェルチマン「現在できる最善の方法だと思います」

トラビス「そうだな。上層部にかけ合おう」

 

25.HutF

 2号機が完成している。

− 試作2号機“ROBINSON AND CLEAVER” −

 が、これも爆発。

三人「…」

  *

 3号機。

フラワーズ「今度こそ…」

 力が入っている三人。

− 試作3号機“HEATH ROBINSON” −

 しかしこれまた、爆発。

 三人 −。

  *

N「そして1943年12月」

 試作4号機。

 悲壮な表情のフラワーズ。

フラワーズ「できることはすべてやりました。これでダメなら…」

 うなずくチューリングとニューマン。

 入力テープをセットし、スイッチを入れるフラワーズ。

 入力テープ、ものすごい勢いで吸い込まれていく。

フラワーズ「(祈るように)頼む…」

 見ている一同。

 計算機のランプが点滅し始める。

「ん?」と顔を見合わせるニューマンとチューリング。

ニューマン「やったか…?」

 三人の顔にみるみる生気がよみがえってくる。

フラワーズ「やった…やった!やったぞ!!」

 こぶしを突き上げるフラワーズ。

 

26.廊下

 研究者たちがバタバタとHutFに走っていく。

 その中にいるトラビスとジョアン。

トラビス「ついにできたんだって?」

ジョアン「ええ」

 

27.HutF

 入ってくるトラビスとジョアン。

 動作している電子計算機。

 目を見張るトラビス。

 計算機の前にいるチューリング、ニューマン、フラワーズの三人。

 トラビス、チューリングを見る。

 チューリング、トラビスにうなずいてみせる。

トラビス「(強く)うむ」

 ウェルチマンが三人に声をかける。

ウェルチマン「やったな」

 満面に笑顔を見せる三人。

 わき上がる拍手と歓声。

N「COLOSSUS(コロッサス) 巨人を意味するその計算機は、1500本の真空管を

 使用し、1秒間に5000字という当時としては驚異的な演算速度を達成した。世界

 最初の実用的な電子計算機の誕生であった」

 

28.イメージ

 コロッサスの改良機。

− MarkII COLOSSI −

N「翌1944年6月には改良機コロッサス・マークUが完成、終戦までに10台が

 働した。アメリカのENIACがついに実戦に間に合わなかったのに対して、コロッサス

 は戦局に決定的な影響力を及ぼしていく」

 

29.連合国軍総司令部

 将校1が文書を手に驚きの表情を見せている。

将校1「Uボートだけじゃない。ヒトラーの動きまで手に取るようにわかるじゃないか。

 ウルトラ情報は一体どこまで…」

 

30.イメージ

 フランス沿岸地図。

N「この時期、連合軍の200万人という史上空前の上陸作戦(オーバーロード作戦)

 をめぐって、イギリスとドイツは激しい情報戦を繰り広げていた。上陸候補地点は二

 つ、パ・ド・カレーとノルマンディー」

 地図に示されたその二つの地点。

 

31.連合国軍総司令部

 そこに入ってくる連合軍最高司令官アイゼンハワー(米)。

アイゼンハワー「どうだ?ドイツの動きは?」

将校1「ドイツがパ・ド・カレーだと思い込んでいるのは間違いないようです」

アイゼンハワー「よし。行こう」

 

32.海岸

− ノルマンディー 1944年6月6日(Dデー) −

 怒濤のように押し寄せる連合軍兵士たち。

N「ウルトラにより情報戦を制した連合軍は史上最大の作戦に成功し、ヨーロッパに

 待望の第二戦線が張った。戦局は一気に終局へと向かっていく」

 

33.外務省暗号研究所

 コロッサスを前に

「カンパーイ!」

 と祝杯を上げる研究者たち。

 笑顔の一同。

 その中にいるチューリング。

 その顔には新たな決意がみなぎっている。

− 次はいよいよ… −

  *

N「この時チューリングは、さらに先を見つめていた。戦後に向けて、計算機は“コ

 ンピュータ”へと大きく変貌していくことになる」

 

(C・終)


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