「栄光なき天才たち」

― ドイツを支えた男たち Aドイツの原爆開発計画 ウェルナー・ハイゼンベルク他 ―

 作.伊藤智義


1.民家 
  ドカドカと踏み込んでくる連合軍。
  将校の指示で兵士たち、家宅捜索に散る。
  呆然としているその家の男。
 男「な、なんだね、あなたたちは…」
 将校「原爆開発計画の一人、カール・フリードリッヒ・フォン・ワイツェッカー博士で
  すね?」
  男、見る。
 兵1「(将校に)他には誰もいません」
 将校「よし。この家の書類はすべて運び出せ」
 兵1「は」
 将校「(男に)ご同行願いますよ。ワイツェッカー博士」
 男「…」

2.同・表
  連行されていくワイツェッカー。
 N「第二次世界大戦末期、連合軍の秘密情報部隊アルソスは、実戦部隊よりもときには
  先行するほどの強行軍でドイツへ侵入していた。この部隊の目的は、ドイツの原爆開
  発計画の全容をできるだけ早く掴むことにあった。
   アルソスの捜し求める最大の人物は、ドイツの最大の物理学者ウェルナー・ハイゼ
  ンベルクであった ― 」

3.科学者の横顔
  W(ウェルナー)・ハイゼンベルク (1901−1976 量子力学の建設者)
  O(オットー)・ハーン (1879−1968 原子核分裂の発見)
  M(マックス)・プランク (1858−1947 量子論の父)
  そこにかぶってタイトル。
 「ドイツを支えた男たちA ― ドイツの原爆開発計画 ― 」

4.大学の研究室
 ― 1939年夏 アメリカ シカゴ大学 ―
  話し合っている二人の科学者。ハイゼンベルク(38)とE(エンリコ)・フェルミ
  (38。イタリアを代表する原子核物理学者。1939年1月アメリカに亡命)。
 フェルミ「どうしても帰るのか?ドイツに」
 ハイゼンベルク「どうしてだ?ドイツは私の国だよ」
 「ウーン…」とフェルミ。
 フェルミ「オットー・ハーンの発見をどう思う?」

5.イメージ
  実験結果を見て驚いているハーン。
 N「1938年12月、O・ハーン原子核分裂反応発見」

6.大学の研究室
 ハイゼンベルク「原子爆弾の可能性か?」
 フェルミ「うん。もし戦争になれば、おそらく我々はそれに無関係ではいられないだろ
  う」
  ハイゼンベルク。
 フェルミ「なあ、ウェルナー。君もこのままアメリカに亡命しないか?」
  ハイゼンベルク、見る。
 フェルミ「はっきり言って君は脅威だ。君ほどの人物がナチスの手元に残ることは自由
  世界にとって非常に脅威だ」
 ハイゼンベルク「それは私にドイツを捨てろという意味かい?」
 フェルミ「もうドイツは研究が続けられる環境じゃないだろう。プランクはナチに抗議
  してカイザー・ウィルヘルム協会総裁の座をおりたというし、君だってずい分…」
  首を振るハイゼンベルク。
  見るフェルミ。
 ハイゼンベルク「私はナチスは大嫌いだがドイツは愛している。科学を信用しないナチ
  スは戦争をすれば必ず負けるだろう。問題はその後だ」
  フェルミ。
 ハイゼンベルク「ナチスが崩壊した時、ドイツも一緒に崩れ去ってはならない。だから
  私は、その日のためにドイツに帰る」
 フェルミ「…」
  二人の姿、ロングになって ―

7.進撃するドイツ機甲師団
 N「ハイゼンベルクが帰国した直後の同年9月、ドイツ、ポーランド進攻。第二次大戦
  勃発」

8.研究を指揮するフェルミ
 ― アメリカマンハッタン計画 ―
 N「そしてフェルミとハイゼンベルクは、それぞれアメリカとドイツで否応なく原爆開
  発計画の中心にすえられた」

9.研究を指揮するハイゼンベルク
 ― ドイツウラン計画(プロジェクト) ―
 N「しかしアメリカに渡った科学者が打倒ナチスのため原爆開発に全精力を傾けたのに
  比べ、ドイツに残った科学者の立場は、極めて苦しいものであった」
   *
 ― カイザー・ウィルヘルム物理学研究所 ―
 ハイゼンベルク「なるほど、ワイツェッカーの言う通りだ。プルトニウムを使えば臨界
  量を小さく抑えられる」
 研究者A「計算によれば、ウラン235に比べて、数分の一になる可能性があります」
  ハイゼンベルク、うなずく。
 ハイゼンベルク「(一同に)しかしこのことは、我々だけの秘密にしておこう」
  うなずく一同。

10.カイザー・ウィルヘルム化学研究所
  研究しているハーン(60)の小さなグループ。
 研究員1「物理学研究所ではついにウラン計画が始まったようですね」
 ハーン「うん」
 研究員1「先生はどうして参加されなかったんですか?」
 ハーン「私かね?」
 研究員1「ええ。なんといっても原子核分裂を発見したのは先生なんですし…」
 研究員2「ハーンは戦争に協力しろと言われたら、今の地位だって捨ててしまうだろう」
 研究員1「(見る)それほどナチスが嫌いなんですね?」
 研究員2「それもある。だがそれだけじゃない」
  と、ハーンを見る。研究員1も見る。
  ハーン。 ― 静かに話し始める。
 ハーン「私は第一次大戦中、ハーバーの下で毒ガスの開発をしていてねえ…」

11.回想(研究所)
  研究を続けている人々。
 ハーンの声「私たちはドイツの勝利と、戦争の早期終結をめざして、毒ガスという悪魔
  の兵器の開発に、全精力を注いでいた」

12.前線(回想)
  塹壕を掘り、対峙している両軍。
 ハーンの声「そして私は、その成果を確かめるため、前線で指揮をとることになった。
  その光景を私は、一生忘れることができないだろう」
  ガスが漂ってきて次々と倒れていく敵兵。
 声「私たちの攻撃したロシア兵は、次々に倒れ、そしてゆっくり死んでいった」
  あまりのショックに立ちつくしているハーン。
  苦しみ、助けを求めている敵兵。
  ハーン、耐えられず駆け寄り、夢中で救命具を口にあててやる。
 声「私は苦しんでいる人々と目と目が合った時、自分の行為の愚かさを深く恥じた。私
  は夢中で救命具をつけて回った。しかし、ただの一人も、救うことはできなかった…」
  ボウ然と立ちつくすハーン。
  そこに一陣の風がむなしく吹いて ―

13.研究室
 ハーン「…」
  研究員1。
  研究員2。

14.物理学研究所
  ハイゼンベルクのところに来ている老科学者。
 ― M(マックス)・プランク(82。科学界の重鎮。ドイツの科学者の精神的支柱と
  なっている科学者) ―
 プランク「なるほど。それでハーンは…」
 ハイゼンベルク「ええ。ハーンさんは言ってましたよ。もしヒトラーが原子爆弾を持つ
  ようなことになったら、自殺した方がましだって」
  見るプランク。

15.同・別室
  研究を続けている研究者たち。
 研究者A「プランク先生は、これからどうするつもりだろう?海外の研究機関からずい
  分招待をうけてたようだけど」
 研究者B「ドイツに残られるようだ。年老いた自分にはもう何もできないかもしれない。
  だけど、ただ自分がドイツにいるというだけで、何か役立つことがあるかもしれない
   ― そうおっしゃってた」
 研究者A「それは心強い」
 研究者C「だけど、ハーン先生と同様プランク先生も、今度の戦争にはずい分心を痛め
  ておられるようだ」
  見る一同。
 研究者C「知ってるか?プランク先生の息子さんて4人のうち3人までが第一次大戦で
  亡くなっているのを」

16.同・別室
 プランク「私も辛いし、ハーンも辛いだろう。だけど、もしかすると君が一番、辛い選
  択を強いられたのかもしれないな。ウェルナー君、あとのことはよろしくたのむよ」
 ハイゼンベルク「はい…」
   *
 N「この時代、ドイツの反ナチスの科学者たちがとるべき道はいくつかあった。
    @ 国外亡命(E・シュレーディンガーなど)
    A ナチスに抗議を続ける(M・フォン・ラウエ)
    B ナチスに非協力(O・ハーン)
   しかしハイゼルベルクは、どの道も取らなかった。ハイゼルベルクの態度はある面
  で、非常に優柔不断に見えた」

17.物理学研究所
  研究を続けているハイゼンベルクたち。
  研究者B ― 険しい顔つき。突然、持っていた器具を放棄する。
 研究者B「もういやだ!がまんできないっ!」
  見る一同。
  ハイゼンベルク。
 研究者B「もうがまんできませんよ。ウェルナーさん。いったい私たちのやってること
  は何なんですか?教えてください。私たちのやってる仕事の意味を!」
  ハイゼンベルク、見る。
 研究者B「ヒトラーのためですか?ヒトラーに原爆を贈るため?それとも ― 」
 研究者A「ビルツ!」
  見る研究者B。
 研究者A「そんなことは、ドイツに残る決心をした時からわかってることだ。ヒトラー
  の暴走を阻止すること、それが我々の ― 」
 研究者B「しかし現実問題として毎日多くの仲間が死んでるんですよ。戦場で。空襲で。
  それなのに私たちのやっていることは…(ハイゼンベルクに)私たちは一体、原爆を
  作らないんですか?それとも作れないんですか?」
  見るハイゼンベルク。

18.同・廊下
  腕一杯に砂糖を抱えて研究者D、来る。
 研究者D「(ニコニコしている)まさか本当に砂糖が手に入るとはね」
  D、スキップ。
  そのまま、

19.研究室
  D、入ってくる。
 D「見て下さいよ、この砂糖!本当にあいつらマヌケですよ。“戦争遂行上不可決”と
  言えば何だって持ってくるんだから」
  と言うが、何か雰囲気が違う。
 D「(Aに)何かあったんですか?」
  ハイゼンベルクに注目している一同。
 ハイゼンベルク「(重い口を開く)作らないと言えば、カッコイイかもしれない。だが
  実際問題として、原爆を今次大戦中に作ることは不可能だろう」
 B「それじゃ何のために…全くのムダじゃないですかっ」
 ハイゼンベルク「ムダじゃないっ!」
  B。
 ハイゼンベルク「戦争はいつか終わる。ナチスは必ず崩壊する。問題はその時だ。その
  時のために研究は続けなければならない」
 B「しかしこのままでは、その前にドイツが潰れるっ」
 ハイゼンベルク「たとえドイツが潰れたとしても、ドイツの科学界は私が守る。そして
  戦争が終わった後は、君たちが再び築き上げるんだ。新しいドイツを ― 」
 一同「…」
  その時、
  ドーン!
  と激しい衝撃。
  と同時にサイレンが鳴る。
 「空襲警報発令!空襲警報発令!」
  窓から顔を出すA。
 A「化学研究所が燃えていますっ!」
 ハイゼンベルク「非難だっ!重要書類は忘れずに運び出せっ!」

20.書類を運び出している研究者たち
 A「(Bに)君は、なぜウェルナーさんが今の仕事に従事しているか、考えたことがあ
  るか?」
  見るB。
 A「自由な研究を求めてドイツを離れることもなく、ハーン先生のようにナチスを頑強
  に拒否するでもなく、現状にとどまった。しかも、『完成させてはいけない』原爆開
  発計画のリーダーに身をおいている。なぜだかわかるか?」
  B。
 A「ウェルナーさんはドイツ物理学界の最後の砦なんだよ。年老いたプランク先生やハ
  ーン先生とはわけが違う。ウェルナーさんがドイツの科学界を追われることは、ドイ
  ツの物理学が死滅することを意味している。そのことはウェルナーさん自身が一番痛
  切に感じていることだ」
  B。
 A「だからウェルナーさんは今の地位に踏みとどまった。次の世代のために古き時代の
  よき物理学の火を消さぬことだけをかんがえてね」
 B「…」
 A「辛いのは君だけじゃない。ドイツの勝利はナチスの勝利を意味し、ナチスの敗北は
  ドイツの敗北を意味するんだからな。その中でプランク先生もハーン先生も、そして
  ウェルナーさんも、信念を持って行動しているんだ。だから我々も…」
 B「(小さく)そんなことは、オレにもわかってるんだ」
  見るA。
 B「そんなことはすべて…ただ今だけは、どうしてもやりきれなくてね」
  A。
 B「オレの弟が、戦死したんだ…」
 A「(見る) ― 」
  遠くから、
 ハイゼンベルク「オーイ、早くしろ!危ないぞォ!」
  見るAとB。
  近くの建物が爆撃を受ける。

21.燃え上がるベルリン市街
 N「1944年2月、ベルリン空襲。カイザー・ウィルヘルム研究所は、これを機に南
  ドイツに疎開を決めた」

22.海岸
  続々と上陸してくる連合軍。
 ― 1944年6月、連合軍ノルマンディー上陸 ―
 N「戦況は日に日に絶望的になっていった。そして7月 ― 」

23.黒いカバン
  中からカチカチと音がしている ― 時限爆弾。

24.地下室
  その時限爆弾が置かれている。

25.その上階
  ヒトラーをはじめ、ドイツ軍首脳が集まっている。
 首脳1「それでは最高作戦会議を始めます」
  うなずくヒトラー。
  その時、
  時限爆弾、爆発。
  激しい衝撃におそわれるヒトラー。

26.煙を上げているその建物

27.田舎町の繊維工場跡
 ― ヘッヒンゲン(ウラン計画(プロジェクト)の疎開地) ―
 研究者B「えっ!?ヒトラーが暗殺された!?」
  色めきたつ研究者たち。
 A「いや、残念ながら未遂に終わったらしい」
 B「未遂か…」
  落胆する一同。
 A「なんでも、ふだんは地下室を使ってるんだが、その時に限って一階にいたらしい。
  奇跡的に無傷で助かったそうだ」
 C「フン、悪運の強いヤツだ」
  そこにD、あわてて飛び込んでくる。
 D「大変だっ!」
 B「(見る。冷静に)ヒトラーが暗殺されたんだろ?」
 C「でも失敗に終わった」
 D「違うんだ。その暗殺未遂事件のメンバーに、プランク先生の息子さんが入ってたん
  だ」
 「えっ」
  驚く一同。
 ハイゼンベルク「それで、息子さんは?」
 D「(沈痛に)虐殺されました」
 一同「…」

28.プランク邸
  無言でピアノを弾き続けている老科学者 ― プランク。
  かけつけてきているハイゼンベルクたち。
  プランク、ただひたすらピアノを弾き続けている。その姿にかぶって ―
 「…私がこの苦痛に耐えうる力を持っているとあなたが思うなら、あなたは私をあまり
  にも買いかぶりすぎている…(後に友人にあてたプランクの手紙より)」

29.空襲される市街地
 N「その後、空襲が激しくなり、プランクは避難所に身を移した。しかしそこも、すで
  に安全ではなくなっていた」

30.エルベ川
  その近くにある避難所。
  その近くに、戦火が迫っている。
  逃げまどう人々。
  大砲の一撃 ― 避難所、ふっとぶ。
  退却するドイツ軍。
  進撃する連合軍。
  その間を ― 。
  逃げ遅れた老人が一人、フラフラと出てくる ― プランク。
  連合軍。
 「何だ、あのじじいは?」
 「かまわん、撃ってしまえ!」
  とその時、一人の将校がハッとなり、とび出す。
 将校「撃つな!撃ってはいかん!」
 兵士たち「?」
  将校、プランクのもとにかけ寄る。
 将校「プランク博士ですね?」
 プランク「(うつろな目で見る)」
 将校「あなたは、マックス・プランク博士ですね?」
 プランク「(かすれた声で)もういい加減に終わりにしないか…こんなことはもう…」
  近くで砲弾が爆発。
  将校、プランクを抱えるように引き返す。
 N「こうしてプランクは、アメリカ軍によって手厚く保護されることになる。
   一方その頃、ハイゼンベルクのウラン計画(プロジェクト)は、事実上、活動を停止
  していた」

31.工場
  閉鎖するハイゼンベルク。
 ハイゼンベルク「ここも間もなく連合軍によって発見されてしまうだろう」
  研究者一同。
 ハイゼンベルク「しかしこんな生活ももう少しの辛抱だ。もうじき戦争も終わる。その
  時にまた、再会しよう」
  散り散りに散っていく研究者たち。
 N「そして1945年4月30日 ― 」

32.荒れはてたベルリン市街
  連合軍に包囲されている一つの建物。
  そこから銃声が一発、響き渡る。
 N「ヒトラー、自殺。ヨーロッパ戦線は終結した」

33.民家A(ハーンの疎開先)
 研究員1「とうとう終わりましたね。ハーン先生。またドイツは…負けましたね」
 ハーン「ドイツが負けたんじゃないさ。ナチスが負けたんだ」
 N「しかし、ドイツの科学者たちの戦後は、まだ始まっていなかった」
  そこに、ドアを蹴破り、ドカドカと兵士たちが入ってくる。
 ― 連合軍秘密情報部隊アルソス ―
 研究員1「何だねっ、君たちはっ」
 将校「(それをムシして)オットー・ハーン博士ですね?」
 ハーン「そうだが?」
 将校「原爆開発計画の容疑で、ご同行願います」
  ハーン、見る。
 研究員1「そんな…。違う!違うぞ!先生はウラン計画とは無関係だっ!先生は一度だ
  って…」
  容赦なく連れていかれるハーン。

34.民家B
  荒々しく連行されていくハイゼンベルク。
 ハイゼンベルク「離したまえ!私は逃げも隠れもしないっ!」
 兵1「黙れっ!ナチスの犬がっ!」
  ハイゼンベルク、キッと見る。
  ― その悲しげな瞳。

35.続々と連行されている科学者たち
 N「彼らが苦しみの中で待ち望んでいたナチス・ヒトラー崩壊の日、彼らはナチス協力
  の疑いで次々に連行されていった。アルソスの真の狙い ― それは、原爆の秘密を知
  る科学者たちを、ソ連に渡すのを防ぐためだったと言われている」

36.抑留所
 N「彼らはイギリスの特別の収容所へ送られた」
  顔を合わせる科学者たち。
  ハイゼンベルク、ハーンを見てビックリする。
 ハイゼンベルク「(イギリス将校に)なぜハーン博士が入ってるんだ?ハーン博士はウ
  ラン計画のメンバーじゃないぞ」
 将校「まあ、いいじゃありませんか。みなさんにお聞かせしたい話もありますし…」
  そう言ってニヤッと笑う将校。

37.抑留所全景
 N「そこで彼らは、運命の放送を聞くことになる。
   8月6日 ― 」

38.イメージ
  湧き上がるキノコ雲。
  そこにかぶって、
 ラジオ「臨時ニュースを申し上げます。本日午前8時、連合軍は日本のヒロシマに原子
  爆弾を投下。一発の爆弾によりヒロシマの街は壊滅」

39.抑留所
  血の気の引いていくハイゼンベルクらドイツ科学者たち。
 ラジオ「死者は10万人を超え…」
 一同「…」
 N「彼らはそのニュースの真意を即座に把握した。
   それはドイツ科学界の敗北を意味すると同時に、つい10年ほど前にはドイツで同
  僚であった仲間たちが、科学者として決して許されざる大罪を行ったことに対する憤
  りがあった。
   とりわけハーンはひどいショックを受けたという」
  真っ青になっているハーン。

40.イメージ
  湧き上がるキノコ雲。

41.ハーン

42.イメージ
  湧き上がるキノコ雲。

43.ハーン
 ― フラッと立ち上がる。
  見るハイゼンベルク ― ドキッとなる。

44.回想
 ハーン「もし原子爆弾のようなものができたら、私は自殺した方がましだ」
   *
 ハーン「私は自殺した方が…」

45.抑留所
  フラッと出ていくハーン。
 ハイゼンベルク「ハーンさん!」

46.ハーンの個室
  ハーン、入ってきて、ドアを閉める。
  と、その場で泣き崩れてしまう。
 N「そのすぐあと、ハーンは1944年度ノーベル化学賞を受賞していたことを知らさ
  れた。受賞理由は、
  “核分裂反応の発見に対して”
  であった ― 」


 (終)


 解説


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