「栄光なき天才たち」
― 下町の文学少女 樋口一葉 ―
作.伊藤智義
1.イメージ
樋口一葉。
N「明治文壇を代表する女流作家樋口一葉は、本名をなつといい、明治5年に士族の娘
として生まれた。
が、17歳の時、父親が事業に手を出し失敗、莫大な借金を残した
まま病死する」
2.町並
― 明治22年 東京 ―
3.樋口家
「破談!?」
目を丸くするなつの母親滝子。
「申しわけありません」
平謝りの青年。
滝子「そんな、今さら…。うちのなつのどこが気にくわないと言うんですか?」
滝子の横で、耐えるようにじっと座っている17歳のなつ。
青年「なつさんには別に…」
滝子「(見る)それじゃお金ですか?」
青年。
滝子「うちの主人が多額の借金を残してしまった。だから…」
青年「いえ、そんなことは決して…」
滝子「だったらどうして!?私たちはあなたに迷惑をかけるようなことは決して…」
青年「とにかく今日はこれで…。いずれまた正式におわびに伺います」
逃げるように立ち上がる青年。
滝子「あ、ちょっと」
ちょうどそこにお茶を運んでくるなつの妹邦子。
青年、邦子とぶつかるようにして出ていく。
あやうくお茶をこぼしそうになる邦子。
続いて滝子が邦子とぶつかるように青年を追いかけていく。
バランスを失い、ガチャン!と湯のみを落とす邦子。
邦子「アーア、やっちゃったあ」
破片をかたづけようとしてかがむ邦子。フト見ると、なつ、堅い表情のまま身じろぎ
もしない。
邦子 ― 出て行こうとする青年の方に目をやる(滝子が必死に止めようとしている)。
邦子「…」
なつ ― 。
そこに必死に止めようとしている母親の声だけが響いて ― 。
4.同・表
青年、出てきて。ホッと息をつく。
青年「冗談じゃないぜ。どうしてオレがここの家の借金を肩代わりしなくちゃならない
んだ」
「あー、危ない、危ない」
と去っていく。
5.樋口家
おさまりがつかない滝子。
滝子「お父さんが生きていた時にはさんざん世話になったくせに、お父さんが死んだと
たん、まるで手のひら返すように…」
ブツブツ言いながら部屋に戻ってくる滝子。
邦子「帰っちゃったの?三郎さん」
滝子「うん」
なつの堅い表情に、一筋の涙が流れる。
あわててそれをぬぐい、
なつ「あーあ、清々した」
努めて明るく二人に、
なつ「それより、これからは私たち3人だけで生きていかなきゃならないんだから…」
と言いかけるが、こみ上げてくる涙をこらえることができず、
なつ「がんばらなくちゃね」
涙で言葉にならない。
必死に涙を抑えようとしているなつ。
顔を見合わせる滝子と邦子。
二人「…」
6.町並B
― 本郷 菊坂町 ―
7.樋口家B
うって変わったオンボロ長屋。
裁縫の内職をしているなつ、邦子、滝子。
なつ「いつっ」
針を指に刺してしまい、顔をゆがめて傷口を口にくわえるなつ。
邦子「やっぱりお姉ちゃんに針仕事はムリね」
なつ「そんなことないわよ」
とまた縫い始めるが、すぐに、
「いつっ!」
邦子「ホラホラ。お姉ちゃん、目だって悪いんだし」
滝子「目が悪いのはお父さんのせいね。なつには昔から学問ばかりやらせようとしたか
ら…」
なつ「あーあ、どうしてこんな仕事しかないんだろ」
滝子「しょうがないでしょ。女なんだから」
なつ「(タメ息)やだなあ、女なんて…」
邦子「そうだ。お姉ちゃんの分は私がやってあげるから、久し振りに萩の舎(父親の生
前から一葉が通っていた歌塾)にでも行ってみたら?」
なつ「萩の舎か…そういえばずい分いってないなあ…」
邦子「ねえ知ってる?萩の舎の田辺花圃さん、坪内逍遥の指導で小説書いたんだって」
なつ「へえ」
邦子「その原稿料がなんと33円!」
なつ「33円!?」
滝子「へえ、小説って意外とお金になるのね」
邦子「うちの生活費がだいたい月10円でしょ?だから、ほぼ3カ月分ね」
なつ「ウーム…(うなる)」
邦子「(軽く)どう?お姉ちゃんも何か書いてみたら?意外とうまくいくかもよ」
滝子「そうよ。やってみなさいよ。どうせあんたには針仕事はムリなんだから」
なつ、ムッと見るが、
邦子「なんなら指導してくれる人、紹介してあげるわよ。きくちゃんの知り合いに半井
桃水(なからいとうすい)っていう新聞小説を書いている人がいるっていうから」
なつ「そうね…やってみようかな…」
邦子「やってみる?」
なつ「うん」
力強くうなずく。
8.小説を書いているなつ
フト手を止める。
ボーッと宙を見つめたかと思うと、フフ、と笑う。
そしてまた楽しそうに書き始める。
邦子「なぁに、ニヤニヤしちゃって」
ドキッと振り向くなつ。
なつ「(すまして)別に」
邦子「(フフンと笑い)隠さなくてもわかってるわよ」
なつ「桃水先生、すっごいイイ男なんだってねェー」
なつ「バ、バカねえ。何言ってるのよ」
邦子「しかも独身」
なつ「でも一度結婚されてるみたいよ」
邦子「でも今は一人なんでしょ?」
なつ「まあね」
邦子「どうしたの?奥さん?死んじゃったの?」
なつ「さあ…」
邦子「フーン…ちょっと危険な関係ね」
なつ「なにが」
邦子「(ニヤッとして)ま、お姉ちゃんにはムリか。桃水先生は30過ぎてるっていう
し、お姉ちゃんはまだ19…」
なつ「(ムッとして)男女の間に年齢なんて関係ないわよ」
邦子「そうかしら?」
なつ「そうよ」
邦子、なつの顔をのぞき込むようにしてニターと笑う。
なつ「(ハッとして)ま、私には関係ないことだけどね」
と、あわてて原稿をふろしきに包む。
邦子「出かけるの?桃水先生の所?」
なつ「なによ。原稿を見てもらうだけよ」
そそくさと出ていくなつ。
邦子「がんばってねー」
邦子、フフッと笑うが、
その視線がフト止まる。
机の上に、開かれたままのなつの日記。
何気なく見る邦子。
*
日記「…借金を依頼していた浪六氏から、都合のつかないとの返答を受ける。最近の質
屋通いも情けなく思われ、毎日が………………ただ、桃水先生とお会いしている一時
だけが、そのすべてを、忘れさせてくれる…」
*
邦子「…」
邦子 ― 静かに日記を閉じる。
9.道
原稿を抱えて歩いていくなつ。
空から白いものがチラチラ舞ってくる。
なつ「あら、雪。急がなくちゃ」
足早になるなつ。
10.空
雪 ― 本降りになってくる。
11.一軒の家
“半井桃水”の表札。
あたりはもう、薄く雪化粧している。
なつ、雪をかぶりながらも、原稿だけは大事そうに懐に抱えて、来る。
なつ「ごめんください」
12.同・玄関
驚いている桃水。
桃水「どうしたんだい、なつさん、こんな雪の中を…」
なつ「いえ、出てくる時は降ってなかったものですから…。お忙しいですか?」
桃水「僕の方はちっともかまわないけど…(雪をはらってやり)まあ、上がって」
なつ「はい」
13.いろりのやかん
静かに湯気をたてている。
14.居間
一人で座っているなつ。
なんとなく落ち着かない。
桃水、お茶を持ってくる。
桃水「今日はちょうど家の者みんな出かけていてね、何も用意できないけど…」
なつ「あ、お一人だったんですか?」
桃水「ああ。それにこんな雪じゃ、誰も来ないと思ってたしね」
なつ「ハア」
桃水「どうぞ(とお茶をおく)」
なつ「(小さく)すみません」
なつ ― その表情が、ほんのり上気して赤くなる。
15.外
しんしんと雪が降っている。
その光景がロングになって ―
16.歌会
― 歌塾・萩の舎 ―
歌を詠んでいるなつ。
師範「結構です。それでは今日はこの位にしておきましょう」
「ありがとうございました」
散会。
女1「なっちゃん、最近調子いいわね。どうしちゃったのよ」
なつ「へへえ…」
女2「私知ってる。桃水さんでしょ」
見るなつ。
女1「何よ、それ?」
女2「うまくいってんの?」
なつ「(首を振る)向こうはあんまりその気がないみたい」
女2「それじゃ片思い?」
なつ「それでもいいの私」
女2「ま、けなげ」
女1「ねえねえ、一体何なの?私にも教えて」
女3「(来て)樋口さん、中島先生が呼んでいるわよ」
なつ「あ、はい」
17.同・別室
塾長の中島歌子。
なつ「(来る)何かご用でしょうか?」
歌子「まあどうぞ」
入ってくるなつ。
歌子「最近調子が良いようですね。歌も数多く創作されているようですし、小説の方も
小さい同人誌ながら何点か掲載されたそうですし…」
なつ「はい、おかげ様で」
歌子「ただ…最近ちょっと変なうわさを耳にしましてね」
なつ「は?」
歌子「半井桃水さんのことです」
なつ「はあ。しかしそれは、私が桃水先生に小説の指導を受けているだけで…」
歌子。
なつ「本当です」
歌子「…しかし、回りはそうは見てくれません。30過ぎた男性の元へ若い女性が足繁
く通うというのはやはり…」
なつ「それならそれで私…」
歌子「そうはいきません。あなたは今、大切な時であるはずです」
なつ。
歌子「田辺花圃さんが、今度あなたの小説が『都の花』に載るように、働きかけてくれ
ています」
なつ「『都の花』に!?」
歌子「そうです。『都の花』といえば一流の文芸誌。今までのような小さな同人誌とは
わけが違います。これはチャンスなんですよ」
なつ「…」
歌子「だいたい、桃水さんとのことは、これからうまくいくというアテでもあるんです
か?」
なつ「…(うつむく)」
歌子「だったら今は、自分のことに専念しなさい。それがあなたのためです」
なつ ― 。
18.帰り道
なつ。
N「思い悩んだ末、一葉は自分の気持ちをおしかためるように、以後、桃水との交流を
一切断つ」
なつ、自分の気持ちをふっきるように、
なつ「そう。今はとにかく書くこと。生活が第一。私は樋口家の家主なんだから」
19.執筆しているなつ
― 書いて書いて、書き続けて ―
N「こうして『都の花』に『うもれ木』を発表した。
しかし―――」
20.本屋
『都の花』を手にとる邦子 ― その顔がほころぶ。
邦子「でてる…でてる!」
21.樋口家
ものすごい勢いで帰ってくる邦子。
邦子「お姉ちゃん!でてるわよ、お姉ちゃんの!」
机に向かったままのなつ。
邦子「(勢い込んでいる)ここよ、ここ!」
と、そのページを開いてなつの前に置く。
なつ邦子を見上げる ― と、その瞳から、スッと涙がこぼれ落ちる。
邦子。
ワッと泣き出すなつ。
びっくりする邦子。
邦子「どうしたの?」
なつ「ごめんなさい、私はもうダメ」
邦子「どうしたのよ、いったい」
滝子「さきからそうなのよ。もう何も書けないって。せっかくこれからだっていうのに
…」
なつ「ごめんなさい、ごめんなさい…」
邦子「どうして…?」
なつ ― 。
N「それまでの一葉は、ただ、小説が発表できたらと気を張りつめていた。が、その目
的をとげると、あまりにも大きな代償を払っていたことに気づいて、もう何も書けな
くなったという。
桃水が結婚したといううわさを耳にしたのも、ちょうどこの頃であった」
22.町並C
N「一葉の筆があてにできなくなった一家は、熟議の上、商売を始めることになった」
― 下谷 龍泉寺町 ―
23.長屋の一画にある雑貨屋
荒物や駄菓子が並んでいる。
店番をしているなつ。
子供「(風船を手にして)これいくら?」
なつ「えーと、それはね、えーと…」
声「5厘よ」
邦子が奥から出てくる。
子供「じゃ、これ(と金を渡す)」
邦子「(受け取り)いつもありがとネ」
出ていく子供。
なつ「さすが邦ちゃんね」
邦子「何がさすがなのよ。これくらいのことで。さあさ、どいてどいて。お姉ちゃんに
お店のことはムリなんだから」
席を譲るなつ。
なつ「ごめんね。私がだらしないばっかりに…」
邦子「何言ってるのよ。お姉ちゃんがダメな時は私、私がダメな時はお姉ちゃん。それ
でいいんじゃない?」
なつ「うん…」
邦子「ここにいても邪魔なだけだから、新しい町でも散歩してきたら?」
なつ「うん。そうする」
24.同・表
出てくるなつ。
そこへ、
「どいた、どいたっ」
と俥が通り過ぎる。
ビックリしてよけるなつ。
なつ「あー、あぶない」
25.商店街
かなりの人通り。
その間を俥がひっきりなしに通り過ぎる。
その中をブラブラしているなつ。
だんご屋。
子供が飛び出してくる。
それを追って母親。
母親「どこ行くんだい、店の手伝いもしないでっ!」
子供「ケンカだよ。今日こそ隣のヤツラをとっちめてやるんだっ」
母親「バカなことはおやめっ」
子供「てやんでいっ。ケンカと祭りは江戸の花でいっ!(行く)」
母親「あ、ちょっとお待ちっ」
そんな言葉をきくはずもなく、子供、アッという間に走り去っていく。
母親「(タメ息)全くあの子は、変なとこだけ父ちゃんに似ちゃって…」
フフ…と笑うなつ。
なつ「この町はずい分活気がありますね」
母親「(見る)ああ、活気だけはね。あんた、ここ、初めてかい?」
なつ「ええ、最近引越してきたばかりで。俥の多さにビックリしてます」
母親「ああ、あれね。あれはみんな、吉原に行くのさ。これから夜にかけて、もっとふ
えるよ」
なつ。
母親「女を買いに行くんだよ」
なつ「(見る)」
ひっきりなしに通り過ぎていく俥。
母親「確かにこの町は活気がある。でもそれは、なんだか悲しい活気だよね。女の悲し
さや哀しみが支えている、なんだかとっても悲しい活気 ― わかるかい?」
奥から店の客が、
「何気取ってんだよ。だんご屋のババアが」
母親「(ムッと振り向き)なにを、この唐変木っ」
客「何だとお!」
言い合いが始まる店内。
なつ。
間。
なつ「女の悲しさ…」
*
N「この下谷龍泉寺での生活も結局は1年ともたずに終わる。だが、この下町での生活
体験は後の一葉の創作活動に決定的な影響を与えることになる」
26.夏祭り
大衆の喧噪。
人ごみの中にいるなつ。
27.イメージ
吉原。
夜のにぎわい。
28.酉の市
大衆の喧噪。
人ごみの中にいるなつ。
29.イメージ
吉原。
夜のにぎわい。
30.境内
人気の少なくなった夕暮れ。
なつ、ぼんやり物思いにふけっている。
そこを男二人が歩いていく。
男1「やっぱりお千代は最高だよ。年に一度はああいうイイ女とやらねえとな」
男2「今日も吉原(なか)に行くのかい?」
男1「あたりめえよ」
男2「あんまりハメはずすとカアちゃんに怒られっぞ」
男1「バカヤロ。女なんてもんはなぁ、一発ガツンとやっちまえば、あとはどうにでも
…」
なつ、その二人を悲しげに見ている。
なつ「(つぶやく)ホント、悲しい町…」
そこに邦子がトボトボ歩いてくる。
なつ「(気づき)邦ちゃん」
邦子「あ、お姉ちゃん」
なつ「どうしたの?ボンヤリしちゃって」
邦子「うん。…やっぱり女だけじゃダメね。世間は冷たい」
なつ「お金?」
邦子「うん…」
なつ「邦ちゃん、女だからっていう考えはよくないわ。わかった。なんとかしてくる」
邦子「あてはあるの?」
なつ「知り合いに一人、お金持ちがいるから…」
行く、なつ。
― そう、女だからという考えは… ―
31.豪邸
32.その一室
男「50円?50円でいいのか?」
なつ「貸して頂けるんですか?」
男「50円といわず、100円でもかまわんよ」
なつ「(喜び)ありがとうございます」
― ホラ、こっちが対等に接すれば、相手も対等に扱ってくれる。すべては本人次第の
はず… ―
男「ただし、1つだけ条件がある」
なつ「なんでしょう?」
男「わしの妾にならぬか?」
見るなつ ― ショック。一変して顔がこわばる。
男「女だけで生きていくのは大変だろう?借金があっては結婚もままならんだろうし。
どうだ?悪い話ではなかろう。しょせん女なんてものは男次第。わしだったらお前を
悪いようにはしないぞ」
なつ ― キッとにらむと、手にしていたお茶を男にパッとひっかけ、立ち上がる。
なつ「失礼します」
男 ― ビックリして見るが、カッときて、
男「待て、このアマ」
と、なつの腕をとる。
なつ「(にらみつけ)離しなさいっ!」
33.樋口家
フン然として帰ってくるなつ。
― どうして… ―
邦子「どうだった?」
なつ、返事をせず、ほこりをかぶった原稿用紙をひっぱり出す。
― どうして… ―
邦子「(心配そうに)どうしたの?お姉ちゃん」
なつ ―
猛然と執筆し始める。
― どうして…こんな思いばかりしなくちゃならないの? ―
34.回想
破談を言い渡されるなつ。
35.なつ
― 涙がたまってくる。
36.回想
去っていく桃水。
37.なつ
― 涙が頬を伝わる。
38.回想
男「妾にならぬか?」
39.なつ
あふれる涙をおさえて、書き続けていく。
― ふざけないでよっ ―
N「一葉は抑え難き思いの全てを原稿用紙にぶつけた。そこには金のためとか、周囲の
評判だとかという意識は全くなかったという」
40.執筆しているなつ
N「ここから、後に“奇跡の14ヶ月”と呼ばれる、一葉の快進撃が始まる」
その姿に、作品が次々とかぶる。
明治27年12月 『大つごもり』
28年 1月 『たけくらべ』
4月 『軒もる月』
5月 『ゆく雲』
8月 『うつせみ』
9月 『そぞろごと』
『にごりえ』
12月 『十三夜』
29年 1月 『わかれ道』
・
・
・
N「代表作『たけくらべ』『にごりえ』をはじめ、名作を次々と発表、文壇に一大旋風
を巻き起こす」
41.イメージ
正岡子規。
「…一行読めば一行に驚き、一回読めば一回に驚きぬ…一葉何物ぞ」
42.樋口家
その批評を読んでいる邦子。
邦子「…一葉何物ぞ、だって」
なつ「(振り向き)私は樋口なつ。女よ」
「ハハハ…」
と笑う邦子。
つられて笑うなつ。
その二人の笑顔にかぶって ―
N「しかしそれもつかの間、今までの無理がたたったためか、明治29年5月、肺結核
発病。同年11月、一葉は帰らぬ人となった」
43.東京の町並
N「わずか24年の、短い生涯であった ― 」
(終)
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