かつて、「もぐらのよもやまばなし」に連載(?)した「半導体物語」です。
ブログから消えるに任せるのは惜しいということで、ここに独立させました。
いろんな半導体材料たちの自己紹介や自慢話をごく適当に翻訳したものです。これから半導体材料を扱う人は是非ご一読あれ。
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私の名前はシリコンです。 ちょっとはずかしいですが、半導体の王様と呼ばれています。 なぜ私が半導体の王様なのかって? まず、地殻にうなるほど含まれている元素なので、大量に安く手に入ります。 IV族の元素半導体なので、ともかく高純度にすると良い結晶ができ、良い特性が得られます。 このあたり、化合物半導体君とは毛並みが違います。(笑) 同じIV族でも、優柔不断な弟の炭素とはちがってかたくなにsp3軌道を保つし、太っちょ兄貴のゲルマニウムと比べて強い結合エネルギーを持っていますから、非常に完全性の高いダイヤモンド型の結晶を作ります。 バンドギャップも大きすぎず小さすぎず、手頃な1.1eVです。これが小さすぎるとちょっと温度が上がっただけで暴走するし、大きすぎると金属と仲良く電荷をやりとりできません。 同じ仲間同士の結合性軌道と反結合性軌道を使って価電子帯と伝導帯をつくりますから、同じとは言わないまでも電子も正孔もそこそこ速く走れます。 さらに、同じ地殻仲間である酸素君と混ざることによって非常に電気を流しにくい酸化物を作ります。酸素君の関節が柔らかい上に強く手を握ってくれるので、酸化物が安定なだけでなく、酸化物と純粋なシリコンとの境界も世間がうらやむほど完璧です。 こんな完璧主義者ですが、頑固なわけではありません。 周期表でご近所にいる硼素君やリンちゃんを、とけ込むように仲間に入れてあげることができます。ちょっとあまのじゃくな化合物半導体君とは違って、みんなと平等に手をつないであげるから、みんなが活性化してドナーやアクセプターとして働きます。 こんな性質のお陰でLSIもできるわけです。 もちろん、太陽電池やセンサーもお茶の子さいさいです。 えっ、苦手なことはあるかって? 実は....光を出すことだけは大の苦手です。 電気伝導に使うのは、シグマ結合の結合性軌道と反結合性軌道ですから、価電子帯と伝導帯の形がかなり違います。そのため、光子を直接つくるのは難しいのです。(訳者注:これを間接遷移と言います。) まあ、一つくらい苦手なものがあったほうがかわいいでしょ♪ |
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僕たちは化合物半導体です。 GaAsなどのIII-V族、ZnSeなどのII-VI族ほかいくつかの種族が仲間です。最近、GaNなどの窒化物半導体も仲間に加わりました。さまざまな仲間がそれぞれの得意技を発揮して活躍しています。ジャニーズのようなものかな?(笑) かつては主役を期待された時期もありましたが、シリコン君の主役の座は揺るぎそうにないので、彼の苦手な分野で名バイプレイヤーとしての確固たる地位を築いています。僕らがいなければ光通信も携帯電話も成り立たないし、色とりどりに光るLEDも無かっただろうね。 複数の元素でせん亜鉛鉱型の結晶や六方晶を作ります。電気陰性度が違う組み合わせほどイオン結晶性が強くなり、もろくなる上に欠陥の無い結晶を作るのが難しくなります。結晶はすぐに割れてしまうので、やさしく扱ってね♪ なにしろ仲間が多いので、様々なバンドギャップをもったものを結晶の格子常数をそろえて作れるのが強みです。仲間同士を積み上げたヘテロ接合を使ってキャリアの障壁などをつくる「バンドエンジニアリング」は僕らの得意技。これがなければ、半導体レーザーは作れません。また、波動関数が干渉を起こせるコヒーレント長以下のサイズでポテンシャル井戸構造を作ると量子効果が現れ、一つの材料では得られないような性質を発揮させることができます。超格子とか量子ドットと呼ばれています。かっこいい名前でしょ?1970年代から80年代には半導体物性研究の花形だったんですよ♪ レーザーと言えば、光を出すのが僕たちの使命と言ってもいいかもしれませんね。 みなさんも、赤や青に光るLEDが身の回りにあるのは気づいているでしょう? LEDは、みんな僕たちの仲間です。1990年代にGaN君が青く光るようになったので、今では三原色そろってます。赤外や紫外も光らせることができますね。どんな元素を混ぜるかでバンド分散が変わるので、誰もが光るとは限りませんが、輻射再結合が許される仲間は多いのです。 もう一つの自慢はキャリア移動度かな。 僕らの仲間は、シリコン君より足が速いものが多く、InGaAs君などはシリコン君より5倍以上速く電子を流すことができます。それを活かして、100Gz以上の高い周波数でも増幅できるトランジスタが作れます。 でもあんまり大量に使わないでね。クラーク数のランキングを見てもわかるように、僕らの仲間はあんまり埋蔵量が多くないから。シリコン君みたいにありふれてないんだよ。 |
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わたしはアモルファス半導体です。 アモルファスって何か知ってますぅ? 語源はギリシャ語のa-morpheで、「はっきりした形を持たないもの」という意味です。優柔不断ってわけじゃないですよぉ。結晶のような長距離秩序がない固体がアモルファスって呼ばれているんです。熱力学的には非平衡な状態なのですが、化学気層成長(CVD)法などの薄膜成長ではそもそも非平衡で膜が作られるので、ごく普通にできちゃいます。 半導体としての歴史は、1968年に多元系カルコゲナイド薄膜のスイッチング特性などが報告されて以来の長い歴史があるんですよ。 その後、1975年に水素化によってアモルファスシリコンのpn制御ができることがわかってからスポットライトを浴びる材料になりました。80年代にはアモルファスシリコンを使ったデバイスが盛んに研究されて、太陽電池やTFTとして皆さんに使ってもらえるようになったんですぅ。*^_^* でも、TFTでは最近ポリシリコン君に押されているのでちょっと肩身が狭いです。(T_T) あ、それと、プラスチック基板上でも作れるので、曲げることができる「フレキシブルトランジスタ」や「フレキシブル太陽電池」はわたしが元祖です。これも、最近有機半導体たちに押されているかも。(^^;) でもね、最近、酸化物アモルファス半導体という仲間が巻き返しをもくろんでいます。 アモルファスシリコンだと、シリコン同士のσ結合による準位が構造ひずみによってとっちらかってしまうので、ギャップ内準位の多いバンド構造になってしまいます。そのせいで、キャリアは捕まっては動くというのを繰り返すホッピング伝導でのろのろしか進めません。 でもね、一部の酸化物アモルファス半導体(例えば、InGaZnOなどが売り出し中♪)では、重金属原子の大きなs軌道同士が酸素をまたいでお隣の金属s軌道と重なることができて、そこそこのバンドをつくれるんですよ。そのせいで、電子だけですが(酸素が電気陰性度高くって電子を持って行くので、重金属原子の軌道は伝導帯になります)移動度がアモルファスとは思えないほど高くなります。結晶半導体のみなさまにはかないませんけど... こんなおくゆかしいわたしですが、今後ともよろしく♪ |
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吾輩は有機半導体である。教科書はまだない。 だれが使い出したか頓と見當がつかぬ。(訳者注:トランジスタとしては工藤先生が先駆者のひとりです。)何でも暗薄いじめじめした研究室で合成された事だけは記憶して居る。吾輩はこゝで始めて人間といふものを見た。然もあとで聞くとそれは大学院生といふ人間で一番獰惡な種族であつたさうだ。此院生といふのは時々我々に電流を流しすぎて焦がすといふ話である。然しその當時は何といふ考もなかつたから別段恐しいとも思はなかつた。但彼のスパチュラでスーと持ち上げられた時何だかフハフハした感じが有つた許りである。 有機導体や半導体材料は我が国の甚だ得意とするところでもある。導電性ポリマー薄膜の合成で白川先生にノーベル賞が授与されたのはまだ記憶に新しい。吾輩の仲間の実用化研究でも、まあ世界の先頭を行つていると思つてよい。 抑も世の中の物質といふものは、金属でなければ心の持ちやうでなんでも半導体である。然らば吾輩の仲間がいかに電流を通し難からうが、半導体だと思ふ者あらば半導体と言つて差し支えなからう。 何しろ、有機分子そのものは閉殻構造である。分子の単位で電子のエネルギー準位が粗方決まつている。然るに、アモルファスであらうが結晶であらうが、或いは多少の不純物が入つていようが、無機の半導体のようにダングリングボンドに悩まされるでもなく、半導体としてキャリアを流すことを得るのが自慢である。 其のやうな性質のお陰で、簡単な設備でもデバイスと言ふものを成し得る。なんでも金で計るのは当世の悪しき習慣であるが、無機半導体で仮にもデバイスを作るのであれば億の単位の設備が必須である。然るに吾輩であれば、ひとまず幾千万円かの出費でどうにか格好が付くといふものである。これは決して貧乏研究室(訳者注:うちの研究室には総額何億かの設備がありますよ。)に優しいと言ふだけではない。低コストで大面積素子を作つて兎も角彼方此方で使おうといふフレキシブルエレクトロニクスなるものには欠かせない性状であると言へよう。 世の中に有機物質は五万とある。当然半導体として使えさうなものも数限りない。それらを組み合わせて、色々な工夫のし甲斐があるのが嬉しいところである。しかも、クラーク数は兎も角、生物圏にありふれた元素を使うので資源的な心配も少なく、燃やせばほとんど二酸化炭素や水になる。 又、植物の光合成が非常に効率の良いことからもわかるやうに、有機色素間の電荷移動を使った光電変換は分子スケールでは極めて効率が高い。これをうまく使えば高感度でしかも特定の色に感度良く反応するセンサーにもなる。太陽電池とやらも作られているさうである。数限りない仲間の中には光るのが得意な輩も沢山ある。 難点と言へば酸素を吸ってアクセプターや電子トラップが出来易いことか。御陰でn型の半導体としては一筋縄ではいかないのは難しい。 いまだ海の物とも山の物とも分からないと言われれば否とは言へぬが、世の中のために役に立つ日が来るのを夢見て研鑽に励んでいる。 (この章は、漱石先生へのトリビュートとしてみました。) |
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