「栄光なき天才たち」特別シリーズ 〜 宇宙を夢見た男たち 〜
 ― CV2号(2) ―

 作.伊藤智義


1.イメージ
  凱旋門を行進するドイツ軍。
 ― 1940年6月14日 パリ陥落 ―
 N「ポーランド進攻後わずか一年足らずでヨーロッパのほぼ全域を手中に収めたドイ
  ツ」

  (図:ドイツ勢力下を示すヨーロッパ地図)

2.イメージ
  ヒトラー。
 N「最終的な目標をソ連においていたヒトラーは、この時期、圧倒的な兵力を背景に
  イギリスに和平を提唱」

3.イメージ
  チャーチル。
 N「しかし、時の英国首相チャーチルは、これを敢然と拒否」

4.イメージ
  進撃するドイツ軍。
 N「さらに1941年6月、独ソ開戦」

5.イメージ
  日本軍の空襲を受ける米軍艦。
 N「12月、日米開戦。戦火は世界中に広がった。
    *
   第二次大戦は、国力の総てをかけた、一大消耗戦へと、突入していったのである」

6.ロケット発射場
  発射台にすえつけられたロケット。
 N「そういう状況下で、A-4ロケットの開発は進められた」
 ― 1942年6月13日 第一回打ち上げテスト ―

  A−4・基礎データ
   全長 14m
   本体最大径 168cm
   打ち上げ重量 13t
   推進剤 エチルアルコール/液体酸素
   推力 25t以上
   1t爆弾搭載可

7.管制室
  見守っている人々。
  フォン・ブラウン。
  ドルンベルガー。
 N「A−4は、奇跡とも思える技術の結集だった」
 声1「発射準備完了!」
 N「その潜在能力は、最高速度1600m/s(マッハ5)、最終到達高度100k
  m、射程300km以上と計算された」
 声2「点火準備完了!」
 N「だが ― 」
 声3「点火!」

8.発射場
  爆音とともに打ち上がるA-4。
  だが飛び方が不安定。
  と、思う間もなく、尾翼がとれ、墜落。
  大爆発。

9.管制室
  あわてて飛び出していく人々。
 フォン・ブラウン「失敗か…」
  そこに将校1、来る。
 将校1「ドルンベルガー将軍閣下!フォン・ブラウン博士!すぐ来て下さい、ロケッ
  ト開発の予算が大幅に削られました!」
  うんざりしたように顔を見合わせるフォン・ブラウンとドルンベルガー。
 ドルンベルガー「またか…」

10.会議室
  国務大臣シュペールに懸命に食い下がっているドルンベルガーとフォン・ブラウン。
 ドルンベルガー「なぜまた削減なのですか。A−4ロケットは、今が一番大事な時な
  のですっ!」
 シュペール「総統は、まだ貴下の計画を第一級のものとはされていない。そしてなお
  貴下の計画が成功するという確信ももっておられない」
 ドルンベルガー「あなた方は、A−4計画を真剣に実行する気があるのかっ!我々を
  信頼し、援助するか、さもなければ長距離ロケット計画は放棄し、ペーネミュンデ
  は何か別の緊急な用途に使ってもらいたいっ!」
   *
 N「ロケット開発には莫大な費用と、大勢の労働者が必要であった。しかも実現性は
  疑わしい。ロケット兵器開発予算は、その時々の戦局によって、めまぐるしく変動
  していた」

   *
 シュペール「(淡々と)総統はA-4が英本国に到達できないという夢を見られた」
  ドルンベルガーの握りコブシが怒りでブルブル震える。
  そのコブシが ―

11.ペーネミュンデ・所長室
  ドン!
  とテーブルを叩く。
 ドルンベルガー「クソッ!首脳部は我々のことを何だと思ってるんだっ!」
 フォン・ブラウン「大丈夫。飛ばしてみせれば済むことだから…」
  ドルンベルガー、見る。
 フォン・ブラウン「(自分に言い聞かせるように)そう、飛ばしてみせさえすれば…」
   *
 N「ドイツのロケット開発計画は、あらゆる面でフォン・ブラウンがイニシアチブを
  取っていた。技術面のことはもちろん、はっきりしない軍部をつき動かし、自らが
  資金集めに奔走した。そしてついにはヒトラーさえも動かすことになる」

12.打ち上がるA-4
  が、空中で大爆発。
 ― 1942年8月16日 第二回テスト ― 失敗 ―

13.地上で見上げている人々
  ガックリ肩を落とす。
 リーデル「(フォン・ブラウンに)やっぱり無理なんじゃないか。こんな巨大なもの
  を300kmの彼方へ、しかも誤差わずか数%の精度で打ち込むなんて…」
 フォン・ブラウン「無理なもんか。こんなものはまだまだ序の口なんだ。月に行くに
  は、火星に行くためには、もっと大型で、もっと性能の良いものを作らなければな
  らないんだ。A-4程度でいつまでもつまづいているわけにはいかない」
  驚いたように見るリーデル。
 フォン・ブラウン「(回りに)失敗したものをいつまでもクヨクヨしていても仕方が
  ない。3号機の試作に入ろう!」
   *
 N「この時期、ペーネミュンデでは、A-4開発と並行して、大型2段ロケットA-9
  ・A−10計画が始まっていた。これは結局、設計段階で終わるが、それは射程距
  離5000kmを越え、遠くアメリカ本土を直撃する可能性を持ったものであった」

  (図:A−9、A−10計画)

14.打ち上げ台
  新しいA-4がすえつけられている。
  それに群がるように作業している人々。
 フォン・ブラウン「グルートルップ!調子はどうだ?」
  男が振り向く。
 ― 電気部門部長代理ヘルムート・グルートルップ ―
 グルートルップ「考えられる点はすべて改良した。もしこれでダメなら、現時点の技
  術力では不可能だということだ」
 フォン・ブラウン「(うなずき)大丈夫。必ず成功するさ」
   *
 ― 1942年10月3日 第三回テスト ―
  マイクから声が響く。
 「10秒前!」

15.管制室
  見守る人々。
  フォン・ブラウン。
  祈るようなそのまなざし。
 ― 頼む。上がってくれ ―
   *
 「点火!」
  エンジン担当技師がメイン・レバーを引く。

16.A-4ロケット
  炎を吹き出し、上昇を始める。

17.不安そうに見守る人々
  A-4、煙だけ残し、アッという間に視界から消える。
  不安な静寂。
  フォン・ブラウン。
  技師が叫ぶ。
 「音速突破!…高度85km!予定進路に入りましたっ!」
 フォン・ブラウン「(見る)異常は?」
 技師2「ありません!」
 フォン・ブラウン「…」
  誰かが叫ぶ。
 「やったぞっ!!」
  喜びが爆発する一同。

18.イメージ
  青い地球を眼下に見下ろし航行するA-4ロケット。
 N「この日人類は初めて宇宙空間の飛行に成功した。しかしそれは同時に、ミサイル
  時代の到来でもあった」

19.管制室
 フォン・ブラウン「よし!これで…」

20.イメージ
  厳寒の中、攻防をくり広げる独ソ両軍。
 ― スターリングラード攻防戦 ―
 N「A-4成功の直後、ドイツは東部戦線で致命的な敗北を喫した。戦局は大きく傾
  き、ドイツ軍の敗走が始まった」

21.地下・大本営
 N「そういう中でフォン・ブラウンは、ヒトラーにロケット兵器の有用性を訴えかけ
  た」
  A-4打ち上げの記録映画に見入っているヒトラー。
 N「A-4上昇の歴史的場面をまのあたりにしたヒトラーは、感動のあまり、しばら
  く言葉が出なかったという」
  映写機の横で、ヒトラーの言葉を待つフォン・ブラウンとドルンベルガー。
 ヒトラー「なぜわたしには君の仕事の成功が信じられなかったのだろう?1939年
  にこのロケットを持っていたら、この戦争は起こらなかったのだ…」
   *
 N「ヒトラーはA-4ロケットを報復兵器(Vergeltungswaffe)“V2号”と命名し、
  月産2000基という大量生産を要求した ― 」


 (C−2・終)


 CV2号(3)


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